電子スピンと磁気共鳴
実験番号:UE5030100
電子スピン共鳴(ESR)は,直流電源で生成された外部磁場中にある物質が持つ,不対電子によるエネルギー吸収に基づいています。このエネルギーは,直流電源で生成された外部磁場と直交する方向に供給される,高周波の交流電源で生成された磁場から吸収されます。交番磁場の周波数が共鳴周波数に等しい場合,試験材料が充填された送信コイルのインピーダンスは,共鳴曲線に応じて変化し,そのピークは,オシロスコープの画面上で目視できます。この実験に適切な材料の1つが,ジフェニル・ピクリル・ヒドラジル(DPPH)です。
実験の手順
- DPPH(ジフェニル・ピクリル・ヒドラジル)の共鳴曲線を観察します。
- 共鳴周波数を磁場の関数として測定します。
- 自由電子に対するランデのg因子を測定します。
実験に必要な機器
- 1022702:ESR/NMR用コントロールユニット ×1
- 1022705:ESR測定モジュール ×1
- U11830:USBオシロスコープ2x25MHz ×1
- U11255:高周波リード線・1m ×2
- Windows PC ×1(別途ご用意ください)
実験解説書
基本原理
電子スピン共鳴(ESR)は,直流電源で生成された外部磁場中に置かれた物質が持つ不対電子によるエネルギー吸収に基づいています。このエネルギーは,直流電源で生成された外部磁場と直交する方向に生成する高周波の交流電源による磁場から吸収されます。交番磁場の周波数が共鳴周波数に等しい場合,試験材料が充填された送信コイルのインピーダンスは,共鳴曲線に応じて変化し,そのピークは,オシロスコープの画面上で確認できます。共鳴吸収は,自由電子のスピン状態間における磁気モーメントの反転を原因としています。共鳴周波数は直流電源で作られた磁場の強度に依存し,共鳴信号の幅は磁場の均一性と関係があります。
スピンのみに関係する磁性における,電子の磁気モーメントは,磁場 B 中では離散値になるものと仮定します。
(1)
2つのレベル間の間隔は,したがって
(2)
試料に加えられる交番磁場の周波数 f が以下の条件を満たすときに,磁気共鳴が発生します。
(3)
本実験では,不対電子を持つ分子からなる有機化合物であるジフェニル・ピクリル・ヒドラジル(DPPH)を使って電子スピン共鳴の発生現象を確認します。基本の磁場は一対のヘルムホルツコイルの内部で作られ,その強度はゼロと最大値のBmax= 3.5 mTの間で,鋸歯状の波形で変化するように設定されています。これらを使って磁場の時間変化を表す鋸歯状の曲線が選択された場合に,その曲線上の異なる位置で共鳴吸収が生じる周波数 f を探すことが可能になります。
評価
共鳴周波数 f と磁場B との間の以下の関係を,(2)式と(3)式から導くことができます。
これから測定結果は,測定誤差の範囲で原点を通る直線上にのることになります。ランデのg因子は,このグラフの勾配から求めることができます。