核スピンと磁気共鳴
実験番号:UE5030200
核磁気共鳴(NMR)は,直流電源で生成された外部磁場中にある物質が持つ,核磁気によるエネルギー吸収に基づいています。このエネルギーは,直流電源で生成された外部磁場と直交する方向に供給される,高周波の交流電源で生成された磁場から吸収されます。交番磁場の周波数が共鳴周波数に等しい場合,試験材料が充填された送信コイルのインピーダンスは,共鳴曲線に応じて変化し,そのピークは,オシロスコープの画面上で目視できます。この実験に適切な材料に,グリセリン,ポリスチレンとテフロンがあり,それらに含まれる元素である, 1H と 19F の原子核が核磁気共鳴の発生に利用されます。
実験の手順
- グリセリン,ポリスチレンおよびテフロン中での,核磁気共鳴の発生を実証します。
- 一定磁場中での共鳴周波数を測定します。
- 1H と 19F の原子核のg因子の比較をします。
実験に必要な機器
- 1022702:ESR/NMR用コントロールユニット ×1
- 1022706:NMR測定モジュール ×1
- U11830:USBオシロスコープ2x25MHz ×1
- U11255:高周波リード線・1m ×2
- Windows PC ×1(別途ご用意ください)
実験解説書
基本原理
核磁気共鳴(NMR)は,直流電源で生成された外部磁場中に置かれた物質が持つ核磁気によるエネルギー吸収に基づいています。このエネルギーは,直流電源で生成された外部磁場と直交する方向に生成する高周波の交流電源による磁場から吸収されます。交番磁場の周波数が共鳴周波数に等しい場合,試験材料が充填された送信コイルのインピーダンスは,共鳴曲線に応じて変化し,そのピークは,オシロスコープの画面上で確認できます。共鳴吸収は,磁場中にある原子核が持つ磁気モーメントによるエネルギー準位間の遷移をその原因としています。共鳴周波数は直流電源で作られた磁場の強度に依存し,共鳴信号の幅は磁場の均一性に関連しています。
以下では核スピンが1の原子核が持つ磁気モーメントが,磁場中で離散値になるものと仮定します。
(1)
2つのエネルギー準位間の差は,これから,
(2)
エネルギー準位間の差が共鳴の条件を満たすとき,均一な磁場に垂直な方向に周波数 f のもう一つの磁場をかけると,エネルギー準位間の励起が発生します。磁場の周波数fが正確に以下の条件を満たすときに核磁気共鳴が発生します
(3)
本実験では,グリセリン,ポリスチレンとテフロンについて核磁気共鳴を行います。これらの物質のうち,グリセリンとポリスチレンにおける核磁気共鳴では同位元素1Hからの寄与があるのに対し,テフロンの場合には同位元素 19F からの寄与があります。均一な磁場は永久磁石を使って発生させます。この磁場に垂直な方向で強度が繰り返し0~最大値に鋸歯状に変化する磁場を,ヘルムホルツコイルで発生させ重ね合わせます。この掃引を交番磁場の周波数を変えながら行うことにより,先に永久磁石で印加した磁場に対して共鳴吸収が発生する周波数 f が見つかります。この磁場として,本実験では鋸歯の中間値を使います。
評価
本実験に関係する原子核のg因子として,文献に,以下の値が記載されています。
(2)式と(3)式から,磁場B 中の共鳴周波数 f に対して,以下の関係が導かれます。
したがって,同じ磁場中にあるさまざまな原子核の共鳴周波数の比は,g因子の比と同じ値になります。