落球式粘度計
実験番号:UE1080350
流体の粘度(粘性係数)は,その流体がどのように流れるかを検討する上で必須のパラメーターです。粘度は,せん断弾性係数と密度に依存します。ニュートン流体の粘度を測定するヘブラー型落球式粘度計では,被測定液体中を小球が落下する時間を測定することで,粘度を直接求めます。
実験の手順
- グリセリン水溶液を使い,小球の落下する時間を温度を変えて測定します。
- 測定結果から粘度を求め,文献値と比較します。
- 粘度の温度依存性をアンドレードの式と比較し検証します。
実験に必要な機器
- U14260:落球式粘度計 ×1
- U11902:デジタルストップウォッチ ×1
- U144002-115:恒温槽×1
- U10146:シリコンチューブ・内径6mm ×1
- グリセリン水溶液 適量 (別途ご用意ください)
実験解説書
基本原理
ずり速度(せん断速度)が,ずり応力(せん断応力)に比例するニュートン流体では,粘度はせん断弾性係数Gと液体の密度ρに依存します。これは液体中を重力に従い,ゆっくりと落下する小球が一定距離を落下する時間を測定することで求められます。粘度は温度依存性を持ち,一般には温度が高くなると粘度は小さくなります。この現象を表わす式として,反応速度論のアレニウスの式を元にしたアンドレードの式が良く知られています。
落球式粘度計では液体中を小球が重力により落ちる速度を測定します。この時には非圧縮流体として近似し,ストークス流と扱うことができます。その時の小球に対する液体による抗力は,次のように表せます。
(1) \( F_1 = \eta \cdot 6\pi \cdot r \cdot v \)
\( r \):小球の半径,\( v \):小球の速さ
また小球が液体から受ける浮力を考慮すると,小球に働く下方向の力F2は次のようになります。
(2) \( F_2 = \frac { 4\pi } { 3 } \cdot r^3 \cdot \left( \rho_0 – \rho \right) \cdot g \)
\( \rho_0 \):小球の密度,\( \rho \):液体の密度,\( g \):重力加速度
速さに比例する抗力が小球に働くので,小球の運動は終端速度を持ち,その時はF1とF2が釣り合っています。よって(1)・(2)式よりηは次の形になります。
(3) \( \eta = \frac { 2 } { 9 } \cdot r^2 \cdot \left( \rho_0 -\rho \right) \cdot g \cdot \frac { 1 } { v } \)
ヘブラー型落球式粘度計は複数の大きさの小球があり,目盛線間隔をゆっくりと落ちるサイズの小球で粘度を測定します。つまり小球が速やかに終端速度に達するようなサイズを選ぶことが必須で,その時のみ終端速度vを目盛線間隔sと落下時間tで置き換えられます。
(4) \( \therefore \,\,\, \eta = \frac { 2 } { 9 } \cdot r^2 \cdot \left( \rho_0 -\rho \right) \cdot g \cdot \frac { t } { s } \)
\( s \):目盛線間隔,\( t \):小球の落下時間
この式では液体と小球の摩擦を考慮していないことに注意してください。実際の測定では他の影響も含めて補正係数を使用します。
U14260落球式粘度計はDIN53015に従って設計されており,被測定液体が入ったチューブは垂直から少しずれています。(水平から80°,DIN53015基準)その為,(4)式の垂直な落下を表わす式ではなく,小球が転がる効果も含めて補正が必要となります。U14260にはメーカーでのそれぞれの小球に対する校正データ(補正計数Kと密度の表)が付属しています。それを用いて粘度ηは次の式になります。
(5) \( \eta = t \cdot \left( \rho_0 -\rho \right) \cdot K \)
測定誤差を小さくするために落下時間は複数回測定します。本実験器は被測定液体の入ったチューブを周囲の恒温槽ごと上下反転できるので,小球が目盛下端に達した後に反転させることで繰り返し測定が可能です。
通常の液体では,粘度の温度依存性はアンドレードの式と良い一致を示します。
(6) \( \eta \left( T \right) = \eta_0 \cdot e^{ \frac { E_A } { R \cdot T } } \)
ここで\( \eta \):粘度,\( R \):気体定数(8.314 [J/mol・K]),\( E_A \):見かけの活性化エネルギーです。
評価
アンドレードの式で両辺の対数をとることにより,見かけの活性化エネルギーEAは,lnηと1/RTでプロットしたときの傾きになることが分かります。
(7) \( \ln { \eta } = \ln { \eta_0 } + \frac { E_A } { R \cdot T } \)
時間の余裕があれば,グリセリン水溶液の濃度に対する粘度変化も測定しましょう。
参考資料
参考値 粘度[mPa-s]
品名 | グリセリン100% | グリセリン50% |
---|---|---|
0℃ | 12100 | 12.5 |
10℃ | 3950 | 9.0 |
20℃ | 1499 | 6.05 |
40℃ | 3.5 | |
80℃ | 1.2 |