熱伝導率と熱流
実験番号:UE2020100
熱伝導現象は,隣接する原子間や分子間の相互作用による物体の熱した箇所から冷えた箇所への,原子の移動を伴わない熱の移動の過程を含みます。円筒形の金属棒の両端を異なる温度に保っておくと,実験開始から多少の時間が経過した後に金属棒に沿って温度勾配が生じます。温度は高温側の端から低温側の端まで均一に低下し,金属棒内に一定の熱流が発生します。過渡的な状態から定常状態への遷移の様子は,金属棒の様々な場所での温度測定を繰り返すことで観察できます。本実験では金属棒を電気的に加熱するので,定常状態での熱流は供給する電力から求められます。
実験の手順
- 一端を加熱し他端を冷却した金属棒における温度の時間変化を,過渡的な状態と定常状態の双方で測定します。
- 定常状態における金属棒の熱流を測定します。
- 金属棒の材料の熱伝導率を測定します。
実験に必要な機器
- U8498290:熱伝導実験装置 ×1
- U8498292:アルミニウム製熱伝導ロッド ×1
- U8498291:銅製熱伝導ロッド ×1
- U138021:75cmプラグ付き安全リード線・15本セット ×1
- U14210:短形ビーカー600ml・10個セット ×1
- 直流電源(20V/5A) ×1 (別途ご用意ください)
- 高速温度計(含むセンサー) ×1 (別途ご用意ください)
実験解説書
英語版 実験手順書 ダウンロード(参考,一部取り扱いのない製品も含まれています)
基本原理
熱は高温の領域から低温の領域へと,伝導,輻射,あるいは対流により輸送されます。熱伝導現象には隣接する原子間や分子間の相互作用による,物体の熱した部分から冷えた部分への原子の移動を伴わない熱の輸送の過程があります。例えば金属棒を加熱すると,高温側の端にある原子は低温側の端にある原子よりも,より多くのエネルギーを持つことになり,その分より激しく振動します。エネルギーは隣接する原子間の衝突により,ひとつの原子から次の原子へと輸送され,これにより金属棒に沿った熱伝導が生じます。金属中では原子と自由電子の衝突も生じることから,金属は特にすぐれた熱の伝導体になります。
断面積がAの金属棒の両端に温度差を設けた場合,実験開始から一定時間の経過後には金属棒に沿って温度勾配が生じ,温度が軸方向に沿って高温側から低温側まで均一に低下します。時間間隔 dt の間に熱量dQが金属棒の断面を通って流れ,一定の熱流 PQが発生します。
(1)
温度勾配が一定になる前の時間t における金属棒の温度分布 T(x,t)は,徐々に定常状態に近づいていきます。このことから,以下の微分方程式があてはまります。
(2)
定常状態において金属棒内を流れる熱流は,式(1)に一致します。
(3)
本実験では,金属棒の一端を電気的手段で加熱します。電子制御された熱源から供給される熱量は,ヒーターの電圧Uと電流Iを測定することにより求められます。
(4)
熱源に流す電流を電子制御することで,金属棒の端部が速やかに摂氏 90℃ に達しその温度が一定に保たれます。 金属棒の他端は冷却バッフルを介して,氷の融点か,あるいは室温にある水温に保たれます。この方法を使うと加熱する熱量は熱量測定法により求められます。
絶縁スリーブの使用は金属棒から周囲への熱の損失を最小にして,定常状態における温度勾配をより線形に近いものにします。1秒以内での温度の測定が可能な電子温度計を使って,金属棒上の予め定めた点で温度を測定します。金属棒は銅製とアルミ製の二種類を使用します。
評価
熱流 PQ は,供給電力 Peℓ から少量の電力損失 Pℓ を差し引いた値に一致します: PQ = Peℓ – Pℓこのことから,λ の値を与える,以下の式が得られます。
(L:選択された温度測定点間の距離)