斜面上の物体

斜面上の物体

実験番号:UE1020400

斜面に置いた物体に働く力を調べます。力はベクトルで表わされるので,分力(=力を幾つかの ベクトルに分解すること)を求めます。これから斜面に置いた物体には斜面に平行で下向きの力が加わることが分かります。

次に斜面上の物体が運動する様子を調べます。ここで使うローラーは転がりながら斜面を下っ ていきますが,質点の運動と見なすことはできません。大きさを持った物体(固体)を「変形しない物体=剛体」として扱います。こうすることでローラーの回転運動がエネルギーを持ち,このため斜面を下る加速度は質点として扱うよりも小さくなることが分かります。

実験の手順

  • 角度を変えて斜面に置いたローラーに働く力を,糸を通して繋がれた分銅の重さで測定します。
  • 斜面に置いた物体に働く斜面下向きの力が,斜面の角度αを使ってsinαに比例することを確かめます。
  • 斜面の角度を変えて,ローラーが斜面を転がり落ちる時間を測定します。
  • 剛体の回転運動を考慮した加速度と測定値を比較します。

実験に必要な機器

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実験解説書

基本原理

力はベクトル量なので任意の複数のベクトルの和で表せます。その為,考えるのに都合の良い分力に分解できます。斜面上の物体を考えるときは斜面に平行な力と斜面に垂直な力に分けると扱いやすくなります。ここから斜面上の物体には斜面に平行で下向きの力が働くことが分かります。次に斜面に置かれた物体の運動を調べます。斜面を滑らずに転がり落ちるローラーは,摩擦の影響をほとんど受けません。ローラーの回転運動がある事により,斜面に平行で下向きの加速度は質点として扱ったときの加速度よりも小さくなります。

図1のように斜面に置かれた物体が,取り付けられた糸を通して斜面に平行な張力によって静止している状態を考えます。ここでは回転軸の摩擦と糸の質量は無視できるとし,糸は伸びないとします。

物体が静止しているので,この物体に働いている力は釣り合っています。物体には4つの力が働いています。重力と糸による張力,斜面からの抗力及び摩擦力です。図1のように斜面に平行にx軸,斜面に垂直にy軸を取ると後の計算が簡単になります。また重力はこの座標系でのx成分とy成分の分力に分けて書くと図1のようになります。

Y軸方向の運動
運動方程式は下記のようになります。

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今,y軸方向へ物体が動くことはありませんから,斜面からの垂直抗力Nと物体に働く重力のy成分が釣り合っています。

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X軸方向の運動
運動方程式は下記のようになります。

2

ここでTは糸の張力,Fは摩擦力,μは摩擦係数を表わします。摩擦力と摩擦係数の正負はここでは分かっていません。 この運動方程式を元に,斜面に置かれた物体に働く力と斜面の角度の関係を調べます。

実験は次のように行います
最初にローラーの質量と錘皿の質量をバネばかりで測定します。
ローラーと錘皿はプーリを通じて糸で繋ぎます。
斜面の角度を固定し,ローラーを斜面に置きます。
錘皿に錘を加えていき,釣り合った時の錘と錘皿の質量合計と斜面の角度を記録します。
(ローラーを斜面上で軽く転がして、上にも下にも同じように動くときを釣り合いと判断します。こうすることで摩擦力の影響を最小限にできます。)
斜面の角度を変えて,同じ実験を繰り返します。

次に斜面を転がり落ちる運動を調べます。摩擦の影響を避けるため,ねじをゆるめてローラーからフレームを外しておきます。この運動ではy軸方向には動かないので,前実験と同じになります。 一方,x成分は次の2つの式を同時に満たします。

3

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この場合,ローラーは下に転がるのでμ>0です。 ここでXはローラーの重心座標,I,aはそれぞれローラーの慣性モーメントと底面の半径を表わします。 これを解くのは有意義ですが煩雑なので,ここでは結果だけを示すと

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となります。(計算詳細は別紙参照) この結果はローラーが斜面を転がる場合,重心運動の加速度が2/3・g・sinαである事を示しています。ローラーの回転運動を考えなかった場合はg・sinαですから,回転のエネルギー分だけ減少していることが分かります。

実験は次のように行います
斜面実験器に適当な距離L(50cm程度)を測って2箇所,テープなどで印を付けます。
高精度バネばかり・5Nでローラーの質量を測定します。
斜面の角度を固定して上側の印にローラーを置き,手を離してから下側の印を通過するまでの時間を数回測定し記録します。
斜面の角度を変えて同じ実験を行います。

評価

最初の実験ではローラーに働く力が釣り合ったときは,錘皿を含めた錘の質量に働く重力とローラーに働く斜面平行下向きの力が等しくなっています。錘の質量を縦軸に,横軸にsinαを取りグラフにすると,誤差の範囲で一直線に載りグラフの傾きがmになることが分かります。(図2)これから斜面に置かれた物体に働く斜面下向きの力はm・g・sinαと言えます。

次の実験データから L/t2 を横軸sinαでプロットすると誤差の範囲で一直線に載ることが分かります。直線の傾きを調べると質点として扱ったときの 1/2 g より小さく,ほぼ 1/3 g になります。この減少分は別紙計算の通り,ローラーの回転エネルギーに使われています。

参考資料

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