ポッケルス効果
実験番号:UE4040500
ポッケルス効果はある種の材料に電場を印加すると,入射した光が互いに直交する方向に偏光した2つのビームに分離されるという電気光学効果です。複屈折性を生じるこの現象は,光の伝播と偏光の方向によって光の屈折率が異なるという性質に由来します。
本実験ではコノスコープ内の光路に配置したLiNbO3を使い,ポッケルス効果による屈折率の変化が印加する電場の強さに比例する事を確かめます。この互いに直交した方向に偏向したビームによる干渉パターンは二組の双曲線になります。またそれらによって,複屈折の光学軸が直接確認できます。
実験の手順
- コノスコープを通る光で複屈折性を検証します。
- ポッケルスセルによる偏光面変化と電場強度依存性を検証します。
- ポッケルスセルの半波長電圧Uπを測定します。
実験に必要な機器
- U8557250:ポッケルスセル ×1
- U10300:光学台,1000mm・D型 ×1
- U103111:光学キャリア・D型,幅5cm,軸さや高9cm ×3
- U103161:光学キャリア・D型,幅3.6cm,軸さや高9cm ×2
- U21840:He-Neレーザー ×1
- W30614:アクロマート対物レンズ・10倍 ×1
- U22017:偏光フィルター ×1
- U17101:凸レンズ,焦点距離+50mm,絞り50mm ×1
- U17130:投影スクリーン ×1
- U13812:プラグ付き安全リード線・75cm・2本セット ×1
- 5kV高圧直流電源装置 x1(別途ご用意ください)
実験解説書
基本原理
ポッケルス効果はある種の物質に電場を印加すると,物質に入射した光が互いに直交する方向に偏光した2つの光線に分離されるというものです。こうした性質は複屈折性といい,光の伝播と偏光の方向によって光の屈折率が異なるという性質に起因します。ポッケルス効果は実験で検証するように電場Eに比例(電場強度の一次に比例)し,一次の電気光学効果とも呼ばれます。
光学的異方性を持つ物質中では,その対称性に従って光の偏光方向により進行速度が異なります。そのため,偏光方向により屈折率が異なります。この性質を複屈折性と呼びます。
本実験では複屈折性を示す光学軸方向にそって結晶全体に均一な電場が印加されるように,結晶はポッケルスセル内で横向きに配置されています(図1参照)。結晶中で光線は電場と垂直に進行し,複屈折性の光学軸方向に沿った通常光線と直交する異常光線に分離します。LiNbO3の複屈折率をHe-Neレーザー(λ= 632.8 nm)で測定すると,通常光線の屈折率は no = 2.29 であり異常光線の屈折率は ne = 2.20 となります。このため通常光線と異常光線の光路差Δは以下の式で与えられます。
(1)\( \Delta = d \cdot left( n_o -n_e right) \)
dは入射光に沿った結晶の厚さで,本実験では d = 20 mm です。
また屈折率の電場依存性から光路差Δは次のようにも表せます。(詳細は別紙参照のこと)
\[ \Delta = \Delta_{initial} + \Delta_{EF} = \Delta_{initial} + k \cdot E \cdot d = \Delta_{initial} + k \cdot \frac {U} {L} \cdot d \]
ここでΔinitial:電場が無いときの光路差,ΔEF:電場に依存した光路差,L:電極間距離(結晶の厚さ),k:電場依存の比例係数,です。
本実験では直線偏光した発散光がポッケルスセルに入射し,アナライザを通った光がスクリーンに映されます。スクリーンの干渉パターンから複屈折の光学軸は,光学軸の持つ対称性により,背景ノイズと明確に識別できます。
本実験のポッケルスセルは複屈折の光学軸が結晶への入射面と出射面に平行であるために,スクリーンには互いに 90°の角度を持つ2組の双曲線の干渉パターンが生じます。双曲線の第一組の対称軸は複屈折の光学軸と平行であり,第二組の対称軸は複屈折の光学軸に直交します。
結晶中の通常光線と異常光線の光路差が光の波長の整数倍の場合,双曲線の暗いバンドになります。これらの光線は結晶を通過する際に元の直線偏光性を保つために,アナライザでブロックされるためです。
(1)式から本実験のポッケルスセルの光路差Δは,He-Neレーザー波長の約2800倍に相当します。加工精度の問題から光路差 Δ は正確に波長λの整数倍にはならず, Δm = m・λと Δm+1 = (m + 1)・λの間になります。
双曲線の第一組の暗線に対する光路差は Δm+1, Δm+2, Δm+3 等となり,双曲線の第二組の暗線に対する光路差は Δm, Δm‒1, Δm‒2等となります(図2参照)。
暗い干渉縞の位置(正確にはその中心)からの距離は, Δ と m・λの差に依存します。ポッケルス効果は印加する電圧により屈折率の差 no - ne を変化させます。これは差 Δ - m・λが変化することであり,暗い干渉縞の位置も変化します。半波長電圧 Uπ が印加されるとΔは半波長分だけ変化します。この時,暗い干渉縞は明るい干渉縞の位置に移り,その逆も生じます。この過程は電圧が Uπ だけ増加するたびに繰り返されます。
参考
光源であるHe-Neレーザーは直線偏光ですが,偏光面は実験中に変わることがあります。その為,長時間の観察では干渉パターンが最初の調整から暗くなることがあります。
また光源が直線偏光なので,類書にあるように光源とポッケルスセルの間に偏光板を置く必要はありません。
評価
電圧が U1 で2つの +1次の暗い干渉縞が中心で接し,電圧U2 で中心で互いに接する暗い干渉縞が+2次となった場合,半波長電圧Uπは次の式で与えられます。
\[ U_ {\pi} = \frac {U_1 – U_2} {2} \]