ホール効果
実験番号:UE6020200
ホール効果は,磁場 B 中に置かれた導電性物質内で生じる現象です。ホール電圧の符号は,電流 I を担う電荷担体の電荷の符号に依存します。さらにその値は,電荷担体の密度に依存します。したがってホール効果は,不純物をドープした半導体における電荷輸送のメカニズムを調べるための重要な方法になります。本実験では,不純物をドープしたゲルマニウム結晶を使って,300K~450K の温度範囲で実験をすることにより,ドーピングによって可能となる外因性電気伝導率と,価電子帯から伝導帯への電子の熱励起によって可能となる真性電気伝導率との違いを確かめます。
実験の手順
- 不純物をドープされたゲルマニウム結晶を使ってホール効果を確認します。
- 室温で電流や磁場を変化させた場合の,ホール電圧の変化を測定します。
- 室温における電荷の担体(キャリア)の符号と密度と移動度を測定します。
- ホール電圧と試料の温度との関係を測定します。
- p型半導体における真性伝導率と外因性伝導率の差を調べて,逆転温度を測定します。
実験に必要な機器
- U8487000:ホール効果実験セット ×1
- U8487030:NドープGe搭載プリント回路基板 ×1
- U8487020:PドープGe搭載プリント回路基板 ×1
- U8497430:変圧器コイル:D型,600巻 ×2
- 1022663:U字型鉄心:D型 ×1
- U8497205:ホール効果実験用磁極片セット ×1
- U138021:75cmプラグ付き安全リード線:15本セット ×1
- UCMA-001:VinciLab ×1
- U8558000:磁束密度センサー,±2000mT ×1
- 1022539 :差動型電圧センサー 10V ×2
- UCMA-BT32I:差動型電圧センサー 500 mV ×1
- UCMA-BTSC1:センサー接続ケーブル ×4
- AC 電源 12V(50/60Hz),3A ×1 (別途ご用意ください)
- DC 電源 0-20 V,5 A ×1 (別途ご用意ください)
実験解説書
基本原理
ホール効果は,電気伝導性を持つ物質を,磁場 B 中に置いた場合に生じる現象です。この効果は,電流の担い手である電荷担体が試料中で移動する方向を,磁場と電流の双方に直交する方向へと曲げる,ローレンツ力が働くことに起因します。電荷担体である電子と正孔が,この効果により分離するために,電流と直交する方向への電場が発生し,ローレンツ力の効果を打ち消す一方で,試料の側端部に,ホール電圧UHを発生させます。ホール電圧の符号は,電流の担体が負電荷を持つ電子であるか,それとも正電荷を持つ正孔であるかによって変わります。さらにその値は,電荷担体密度に依存します。このことから,ホール効果は,導電性物質内での電荷輸送のメカニズムを調べるための,重要な手段となるために,しばしば,ドープ型半導体の研究に利用されてきました。
本実験では,不純物をドープしたゲルマニウム結晶を使って,300K~450Kの温度範囲にわたって実験をおこないます。試料には,電流 I が流れる方向の長さが aで,幅b,厚さd の,平たい長方形をした結晶を使用します。磁場 B は試料の中に,電流と垂直な方向に入り込みます。その結果として生じるホール電圧は,以下のようになります:
(1)
ホール係数は,
(2)
ここで,アンペア・秒は素電荷です。
伝導帯にある電子の密度と移動度,価電子帯の正孔の密度と 移動度は,物質に固有の量であり,試料の温度に依存します。 実験で電気伝導度を得るには,ホール電圧以外にも,試料内の電流方 向の電圧降下を測定する必要があります。
(3)
この過程で,ホール移動度も求まります:
(4)
電荷担体の密度との値は,ドーピング(結晶内への異種原子の導入)によって変化します。p型ドーピングの場合,アクセプター原子は価電子帯にある電子と結合することで,価電子帯に正孔を生じさせます。n 型ドーピングの場合,ドナー原子の各々は,伝導帯に1つずつの電子を供給します。
ドープ後の結晶は電気的に中性であり,正と負の電荷は互いに相殺します。このことから,以下の関係式が導かれます:
(5)
:アクセプターの濃度
:ドナーの濃度
電荷担体の密度ととの間には,質量作用の法則による関係があり,熱平衡状態においては,単位時間当たりに発生する,電子・正孔対の生成と再結合の回数は同数になります。このことから,次の式が適用でき ます:
(6)
は,真性電気伝導の場合の電荷担体密度です(実験UE6020100 を参照)
したがって,(5)式と(6)式から,一般的に,電荷担体の密度は以下の式で表されます:
(7)
(8)
室温では,アクセプターの濃度とドナーの濃度は,真性電気伝 導の場合の電荷担体密度よりも,かなり大きな値を持ちます。
以上から,n型ドープの場合,温度が300Kでホール係数は,
(9)
となり,p型ドープの場合は,温度が300Kでは,
(10)
という結果が得られます。
これらより,電荷担体の符号と密度は,ホール係数から直接読み取ることができます。また,電荷担体の移動度は,ホール移動度と同一になります。
評価
温度が上昇するにつれて,電流の担い手である電荷担体の数が増加する一方で,ホール電圧は減少し,ついにはその値がゼロに達します。電子の移動度 nの方が,正孔の移動度よりも大きいことから,p型ゲルマニウムの場合には,真性伝導率の増加は電子の影響を増大させて,ホール電圧の符号を変えます。逆転温度以下では,ドーピング による電気伝導が主であるのに対して,逆転温度より上の温度領域では,真性電気伝導が主な電気伝導のメカニズムになります。 高温では,n型ドープとp型ドープの結晶は ,区別がつかなくなり,以 下の関係が成り立つようになります:
移動度との温度依存性は,高温ではどちらも,
(実験番号:UE6020100の実験内容も参照のこと )
となるために,ホール係数を調べるだけでは,これらの温度依存性を明らかにすることはできません。
参考資料
注意
本実験に使用するのと同型のゲルマニウム結晶の電 気伝導度の温 度依存性は,実験番号:UE6020100の実験で測定します。