電子線偏向(基礎)
実験番号:UE3070500
トムソン管では水平方向に照射される電子線の縦方向の偏向を,蛍光スクリーンにより観察することができます。この縦方向の偏向は,縦方向の電場や水平方向に磁場を加えることで実現できます。
実験の手順
- 磁場による電子線の偏向を調べます。
- 電場による電子線の偏向を調べます。
- 電子の比電荷を見積ります。
- 直交電磁場により速度フィルターを形成します。
実験に必要な機器
- U18555:トムソンの電子線実験管・S型 ×1
- U185002:陰極線管ホルダー・S型×1
- U185051:ヘルムホルツコイル・S型 ×1
- U138021:プラグ付き安全リード線・75cm・15本セット×1
- 高圧直流電源(500V/50mA)×1 (別途ご用意ください)
- 直流電源(10V/3A) ×1 (別途ご用意ください)
- 5kV高圧直流電源装置 ×1 (別途ご用意ください)
実験解説書
英語版 実験手順書 ダウンロード(参考,一部取り扱いのない製品も含まれています)
基本原理
トムソン管では電子線は水平に進み,陽極の後ろに置かれたスリットを通ることにより細いビームとなります。傾斜をつけて電子管内に配置された蛍光スクリーンに当たることで,電子線の軌跡が観察できます。スリットの後方には平板コンデンサが置かれていて,電場を加えると縦方向に電子線を偏向させることができます。またヘルムホルツコイルを使うことで,電子線と垂直な磁場を発生させることができ,これによっても電子線を縦方向に偏向させることが可能です。磁場B の中を速度v で動く電子は,次のようなローレンツ力Fを受けます。
(1)
ここでe は電気素量です。速度と磁場のベクトル積なので,この力は両ベクトルの張る平面と垂直に働きます。その為速度と磁場が水平面にあれば,偏向は垂直方向に起こります(図1参照)。磁場が均一で電子の速度と垂直であれば,同じ大きさの向心力を受け,円形の軌跡を描くことになります。この向心力は次のように書けます。
(2)
ここでmは電子の質量,r は円形軌道の半径です。電子の速度は陽極電圧に依存します。陽極電圧UAによる位置エネルギーが全て運動エネルギーに変わるとすると,速度v は次のように表せます。
(3)
この式により磁場Bと陽極電圧UA が分かっていれば軌道の半径を測定することにより,電子の比電荷が求められます。(2)(3)式により比電荷は次のようになります。
(4)
偏向の半径r はトムソン管内のスクリーンに映った軌跡から,読取ることができます。磁場B は2 つのヘルムホルツコイルを流れる電流IH から計算することができます。一方,平板コンデンサに電圧UPを印加すると,電極間に一様な電場E が発生し,次のような力を電場に平行に受けます。
(5)
この偏向も縦方向に起こるので,正確に磁場による偏向と打ち消し合うように電場を設定すると,次の式が成り立ちます。
(6)
よって電子の速度v は
(7)
となります。
このように偏向を打ち消し合うように,電場・磁場を設定することを速度フィルターと呼ぶことがあります。この実験では磁場Bは,ヘルムホルツコイルの対で作られます。磁場B はコイルを流れる電流に比例し,次のように計算できます。
ここでR はコイルの半径で68mm であり,N は巻き数で320 回巻です。電場E は印加電圧Upと電極間距離d から
と計算できます。